ページ数の多い手順書や、たくさんのファイルがあるオンラインヘルプなどでは、まったく同じ文章があちこちで使われていることがあります。たとえば、オンラインヘルプでは、ある製品の特定の機能の概要や決まった操作方法が複数のファイルで出てくることがあります。このような場合、英文が同じなら訳文も統一するよう求められることが多いのですが、あちこちに散在している同じ文章の訳文を漏れなくそろえるにはどうすればよいでしょうか。
このようなときも、翻訳メモリを活用すると効率よく翻訳できます。翻訳支援ツールを使って翻訳メモリに登録しながら翻訳を進めていけば、翻訳済みのページにあったものと同じ文章が出てきたときに、先に訳された文章を流用できます。また、量が多くて複数の翻訳者で分担して作業を行う場合も、翻訳メモリを共有して作業を進めると、訳文の統一が容易になります。ただし、翻訳会社が外部の翻訳者を手配して分担する場合は、1つの翻訳メモリをリアルタイムで共有しながら作業できるとは限りません。翻訳メモリを共有しない場合、翻訳を進めながら訳文を統一していくことは困難なので、翻訳後のレビューの段階でレビュアが訳文を確認、統一します。
発注した文書にそのような特徴があるかどうかをお客様が見極めるのは難しいと思われるかもしれません。しかし、翻訳を発注した文書の特徴を把握できると、お客様のレビューの手間や、翻訳会社に修正を依頼する手間が省ける場合があります。
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1. ココをチェック: 解析結果
2. 効率的な翻訳の進め方の例
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1. ココをチェック: 解析結果
お客様が見積りを依頼するときには、翻訳会社に原文や(ある場合は)翻訳メモリなどの各種資料を提供します。翻訳会社はこれらをもとに翻訳支援ツールを使って原文ファイルを解析して作業量を把握し、費用や作業期間を見積もります。
このとき、翻訳会社に、解析結果と呼ばれている数値も提示してもらいましょう。たとえば次のようになっていたとします。
こちらはTrados Studioという翻訳支援ツールを使って解析した結果の例です。
1行目(水色部分)の項目は、翻訳メモリと照らし合わせて、それぞれのファイルにどのような単語がいくつ含まれているかを表しています。パーセントの数値は、翻訳メモリ内のデータとの一致率です。数値の区分は設定によって異なるため参考としてご覧ください。
ここでお客様にチェックしていただきたいのが「ファイル間の繰り返し」です。これは、対象となる全ファイルの中で、ファイルをまたいで繰り返し使われている文章がどのくらいあるかが単語数で表されています。
今回の例では、「advanced_settings.docx.sdlxliff」ファイルの数値が一番大きくなっています。
2. 効率的な翻訳の進め方の例
ここまで確認できたら、翻訳会社と進め方を相談しましょう。
実際には、たとえばどのファイル同士に繰り返しが多いのかなど、もう少し詳しく「繰り返し」の内容を確認する必要がありますが、ここでは対処法の一つをご紹介します。
繰り返しのワードカウントが多いファイルを先に完成させる
この方法をとると、より効率的に翻訳を進められる場合があります。
たとえば、まったく新しい製品のマニュアルを初めて翻訳する場合で、概要説明や機能紹介のページに「ファイル間の繰り返し」が多い場合です。繰り返しの文章には、新しい概念、製品名、機能名などの情報が含まれていることが多いため、これらのファイルを先に翻訳してお客様に確認していただくことで、その後のお客様への問い合わせや申し送り事項を減らしたり、お客様のレビューの時間を短縮できたりする可能性があります。
ただし、解析結果の「繰り返し」は、同じ文章が2回目以降に出現するファイルでカウントされますので、たとえば、ファイルAとファイルBに共通する記述があり、A→Bの順序で解析した場合、繰り返しはファイルBに出現することになります。この場合AとBのどちらを先に翻訳したほうがよいかは内容によって異なります。ですので、先ほどの例で本当にadvanced_settings.docx.sdlxliffを一番先に翻訳したほうがよいかどうかはもう少し検討する必要があるでしょう。
ワードカウントを見て、「ファイル間の繰り返し」に高い数値があったら、翻訳する順番やワークフローについて翻訳会社と相談してみることをおすすめします。