はじめに
翻訳会社と仕事を進めていくと、どこかのタイミングで「用語集があったらください」と言われることがあります。絶対に必要なものというわけではありませんが、あると便利なことは確かです。用語集とは、厳密にいえば特殊な用語とその定義や説明が記載されているものを指しますが、翻訳作業で使う場合は、単に、ある用語の原文と訳文の対訳集を示す場合があります。対訳集には特殊な用語だけではなく、一般的な用語だがこのように訳して欲しいというものも入っていると、訳文に一貫性を持たせるのに役立ちます。対訳集を作るのはそれほど難しいことではないので、翻訳を発注する予定がある場合は、事前に簡単なものを作っておくとよいでしょう。
形式
特に決まった形式があるわけではありません。プレーンテキスト、Microsoft Word、Microsoft Excel、Google Spreadsheetなど、使いやすいものをお使いいただければよろしいかと思います。よく見かけるのはタブ区切りのテキストや、Microsoft Excelの表です。
内容
大きくわけると2項目に分類されます。
用語(訳語): A言語ではこう、B言語ではこう、......と書きます。これが最小限の「対訳集」になります。
備考: 注意事項やメモを記載します。ここに記す情報があまり多いと管理の手間も増えることになるため、何を記載するか整理しておく必要があります。
まずは簡単な例を見てみましょう。
簡単な例
一番単純な形はこのようになります。この例のように、用語かと言われると用語ではなさそうなものもよく載っていますので、あまり考え込まずに、よく見かけることばを載せていくといいでしょう。この対訳集を使っていると(どう見ても役に立たないだろうというツッコミはご容赦いただくとして)、少々困ったことになる場合があります。
上の対訳集を参考に、"orange polo shirts"と、"Apple iPhone"を翻訳するとしたら、どうしたらよいでしょうか。
対訳集でorangeはオレンジとなっているんだから「オレンジのポロシャツ」に決まっているだろう、と思われるかもしれません。しかし上記の用語集では、orangeとappleが並んでいるところを見ると、これらはどうも果物の訳語を指定しているようです。形容詞として色を指す場合も同じ訳語でいいのでしょうか。一方、Apple iPhoneの場合は、明らかにリンゴとは訳せません。これは対訳集を無視する場合もあるという一例です。
対訳集をもう少し詳しくしてみましょう。
少し詳しい例
備考欄を追加して、条件を書いてみました。実際の対訳集では、このような形をよく目にします。また、品詞によって訳語を指定する場合もあります。たとえば、orangeの備考欄に「名詞。形容詞の場合は『オレンジ/オレンジ色』」と書いておきます。
最後のapples and orangesの例のように、フレーズ単位で対訳集に登録することもよくあります。備考欄に「プレゼン資料の場合」とあるので、なるほど、プレゼンのファイルでこの言い回しが何度か出てきたんだな、と想像が付きます。このフレーズは何度も見たことがあるぞ、と思ったら、訳語がブレないように登録してしまうのも1つの手です。しかし、対訳集に登録してしまうと、文脈に沿っているかどうか微妙なところでもその訳が使われることになりがちなので、いいことばかりではありません。
もっとも、そのような影響まで事前に判断するのは困難ですので、とりあえずはよかれと思ったものを登録して、問題があったらその都度柔軟に対応するといいでしょう。
用語の選定
対訳集に載せることばは、どのように選んだらいいのでしょうか。用語を完璧に抽出できるうまい方法は残念ながら存在しません。既存の資料を見ながら拾っていくのが一般的な方法になるでしょう。この作業は、翻訳のついでに翻訳会社に頼むこともできます。
翻訳会社/翻訳者はどう使うか
表の形式でそのまま参照して使うこともあれば、必要に応じて形式を変換して、翻訳支援ツールに組み込んで使うこともあります。また、指定された用語が使われていることを確認するために、検証用のツールに読み込ませることもあります。
まとめ
たとえ5語か10語くらいの小さな対訳集のファイルでも、翻訳開始時に提供されると翻訳者は作業がしやすくなります。用語に関する問い合わせが減り、担当者様のやりとりの負担が減るかもしれません。翻訳の発注を検討している場合は、まずはごく簡単なものから作成して、翻訳会社とやりとりする中で、最適な形式を探るとよいでしょう。