「翻訳メモリ」って聞いたことがありますか?
IT翻訳では翻訳メモリを使用することが前提になっていることが多いため、ご存知の方も多いと思います。翻訳メモリは、英語のTranslation Memoryを略してTMと呼ばれることもあります。今回は、この翻訳メモリについてご紹介します。
翻訳メモリは原文と訳文のデータベース
翻訳メモリとは、翻訳した原文と訳文をペアにして蓄積していくデータベースです。翻訳作業にはTrados Studioなどの翻訳支援ツールを使用することが多く、翻訳メモリはそうしたツールに組み込んで使用します。
翻訳メモリは、翻訳がある程度進んだ段階や、2 回目以降の翻訳で力を発揮します。
例えば、製品Aという製品のマニュアルの翻訳を過去に依頼したことがあったとします。後継の製品Bの発売にあたって、そのマニュアルに製品Aのマニュアルと同じ記述が含まれているとします。ここで製品Aの翻訳メモリがあれば、同じ記述には翻訳メモリから以前の訳文を再利用できるので、翻訳者は新しい記述や、変更のあった部分だけを翻訳すればよいというわけです(ただし、同じ記述でも文脈によって訳文を変える必要がある場合もあります。ここではわかりやすくするために単純に説明しています)。
改訂された部分については、翻訳支援ツールが翻訳対象の原文を翻訳メモリと照合して、似ている文章があれば候補の訳文を表示してくれます(このように部分的に一致する文章のことを翻訳業界ではファジーマッチと呼んでいます)。翻訳メモリを活用すれば、過去にレビューされた訳文を流用して、新たに翻訳した場合に発生しそうな誤りを未然に防いだり、訳文のトーンを容易に統一できたりします。流用可能な部分が多ければ、全体の費用や作業日数を減らすこともできます。
翻訳メモリのしくみ
翻訳会社では、翻訳時に翻訳メモリをどのように活用しているのでしょうか。
たとえば、次のような英文の翻訳を行ったとしましょう。
【原文】
How to install CB-21
1. Remove the cover A on the main body.
2. Connect the cable of CB-21 to the terminal B of the main body.
3. Turn on CB-21.
4. Confirm that the message "CB-21 is connected" is displayed on the main body.
【訳文】
CB-21の取付手順
1. 本体のカバーAを取り外します。
2. CB-21のケーブルを本体の端子Bに接続します。
3. CB-21の電源をオンにします。
4. 「CB-21が接続されました」というメッセージが本体に表示されることを確認します。
翻訳メモリには、原文と訳文のペアとして次のように登録されます。
| 原 文 | 訳 文 |
|---|---|
| How to install CB-21 | CB-21の取付手順 |
| 1. Remove the cover A on the main body. | 1. 本体のカバーAを取り外します。 |
| 2. Connect the cable of CB-21 to the terminal B of the main body. | 2. CB-21のケーブルを本体の端子Bに接続します。 |
| 3. Turn on CB-21. | 3. CB-21の電源をオンにします。 |
| 4. Confirm that the message "CB-21 is connected" is displayed on the main body. | 4. 「CB-21が接続されました」というメッセージが本体に表示されることを確認します。 |
翌年にCB-22が発売されることになり、次のような記述を含むマニュアルの翻訳が必要になったらどうなるでしょうか。ここで、翻訳メモリの力が発揮されます。赤い文字が改訂された部分です。
【原文】
How to install CB-22
Before the installation, make sure that CB-21 is connected to the terminal B of the main body.
1. Remove the cover A on the main body.
2. Connect the cable of CB-22 to the terminal C of the main body.
3. Turn on the main switch of CB-22.
4. Confirm that the message "CB-22 is connected" is displayed on the main body.
翻訳メモリにはCB-21のときの翻訳が保存されています。次のように、似ている文章、CB-21のマニュアルにはなかった新しい文章、まったく同じ文章があります。
| CB-22の原文 | 翻訳メモリにある訳文 |
|---|---|
| How to install CB-22 | CB-21の取付手順 |
| Before the installation, make sure that CB-21 is connected to the terminal B of the main body. | (新しい文章) |
| 1. Remove the cover A on the main body. | 1. 本体のカバーAを取り外します。 |
| 2. Connect the cable of CB-22 to the terminal C of the main body. | 2. CB-21のケーブルを本体の端子Bに接続します。 |
| 3. Turn on the main switch of CB-22. | 3. CB-21の電源をオンにします。 |
| 4. Confirm that the message "CB-22 is connected" is displayed on the main body. | 4. 「CB-21が接続されました」というメッセージが本体に表示されることを確認します。 |
CB-21の翻訳メモリの訳文を利用して、新しい原文に合わせて翻訳します。
| CB-22の原文 | CB-22の訳文 |
|---|---|
| How to install CB-22 | CB-22の取付手順 |
| Before the installation, make sure that CB-21 is connected to the terminal B of the main body. | 取付の前に、CB-21が本体の端子Bに接続されていることを確認します。 |
| 1. Remove the cover A on the main body. | 1. 本体のカバーAを取り外します。 |
| 2. Connect the cable of CB-22 to the terminal C of the main body. | 2. CB-22のケーブルを本体の端子Cに接続します。 |
| 3. Turn on the main switch of CB-22. | 3. CB-22のメインスイッチをオンにします。 |
| 4. Comfirm that the message "CB-22 is connected" is displayed on the main body. | 4. 「CB-22が接続されました」というメッセージが本体に表示されることを確認します。 |
このように、過去の訳文を活用して、原文の変更部分を確認して修正したり、前後の文章のトーンに合わせて新たな部分を翻訳したりすることで、効率よく改訂版の翻訳を進めることができます。